「遠赤外線」は“炭焼きの魔法”ではない:伝導・対流・放射で読み解く加熱設計
- BOQUERIA

- 2025年12月15日
- 読了時間: 6分

1. 【導入】「遠赤」「炭焼き風」は、道具名では再現できない
直火の上に置く網。
溶岩プレート。
ブリケット。
セラミック板。
“それっぽい”道具は山ほどあります。
ただ、現場で再現性まで取ろうとすると、答えはここに収束します。
本質は道具名ではなく、
**「食材に入る熱の経路(伝導・対流・放射)の比率設計」**です。
2. 【前提】熱は3経路の足し算(現実は必ず混在)
料理で食材が温まる方法は、結局この3つしかありません。
伝導:触れて入る
対流:空気や水(油・蒸気)が運ぶ
放射:赤外線が当たる
現実の調理は、必ず同時に起きます。
違うのは、**どれが強いか(割合)**だけです。
ここだけ先に結論
「遠赤が効くか」ではなく、
**“今その食材に入っている熱の主役は何か”**を見た方が、ブレが減ります。
3. 【3経路の中身】それぞれの“勝ち筋”が違う
3-1. 【① 伝導(接触)】触れて入る熱
フライパン、鉄板、石床など、触れる道具は伝導が主役です。
結果を決める主要因は次の3つです。
・接触面積(どれだけ触れているか)
・接触の安定(油膜/押し付け/ガタつきの有無)
・熱源側の温度回復(板厚/熱容量=冷たい食材を置いた後に戻れるか)
焼き色が鈍い/香りが弱いは、だいたいここで起きます。
「触れていない」「置いた瞬間に温度が落ちた」――このどちらかです。
3-2. 【② 対流(流体が運ぶ)】空気・湯・油・蒸気が運ぶ熱
空気、燃焼ガス、湯、油、蒸気など、動くものが熱を運びます。
対流の強さ(=熱の運びやすさ)は、条件で大きく変わります。
・ファンの有無(強制対流か自然対流か)
・ドラフト(空気の流れ/排気の作り方)
・沸騰の強さ(液体の動き=対流量)
・投入量(庫内や鍋の“温度落ち”を起こす量)
現場メモ
スチコンが「均一」「歩留まりが出る」のは、
対流+湿度をコントロールできるからです。
逆に言うと、表面反応(焼き色・香り)は“別途足す”設計が強くなります。
3-3. 【③ 放射(赤外線)】当たって入る熱(いわゆる遠赤)
炭、ブリケット、窯壁、上火ヒーターなど、高温の面から赤外線が出ます。
それを食材表面が吸収して熱になります。
ポイントはここです。
放射は、温度が上がり切ると急に強くなる(温度の4乗スケールで増えるため)。
つまり“遠赤が効くかどうか”は、材質名よりも、
その面が何℃まで上がっているかに支配されます。
4. 【誤解の整理】“遠赤=中まで入る”ではない
放射(遠赤)は基本的に、表面で吸収されます。
内部へは最終的に、伝導で熱が入るだけです。
したがって実態はこうです。
× 遠赤で「中まで直接」加熱する
○ 表面が受け取る熱量を増やし、内部へ流れ込む(=伝導で入る)熱を増やす
言い換え
遠赤は「中まで魔法で入る」ではなく、
表面を強く温めて、中に熱を押し込むイメージです。
5. 【溶岩プレート】直火をプレートで塞ぐと何が起きるか
ガス火がプレートでほぼ覆われると、構造的にこうなりがちです。
燃焼ガスが食材をなでる対流が弱まりやすい
立ち上がりがプレートの熱容量に引っ張られる
よくある負けパターンはこれです。
・プレート表面温度が高温域まで上がり切らない
→ 放射が伸びない
→ 総合的に「鈍い加熱」になりやすい
一方で、ブリケットやセラミックのように
**「炎を高温の固体面に変換して、放射を稼ぐ」**設計は狙いが明確です。
ここでも勝負は材質名ではなく、次の2点です。
・どれだけ高温面を作れるか(立ち上げ温度)
・食材からどれだけ“見えているか”(距離/遮蔽物/配置)
6. 【石窯・ピザ窯/スチコン】強みの方向が違う
石窯・ピザ窯は構造的に、
・床の伝導
・壁・天井の放射
が強く、短時間で焼き色と香り(表面反応)を作りやすいです。
一方、スチコンは**対流(+湿度制御)**が武器で、
歩留まり・均一性・再現性に強い装置です。
品質設計として合理的なのは、こういう二段構えです。
「スチコンで狙い通りに芯まで入れる」
→「最後に放射/伝導で焼き色と香りを足す」
7. 【真空】“真空かどうか”より「袋という界面」が増えるのが本体
真空調理も、同じ考え方で整理できます。
一般的な真空パック(ナイロンポリ等)は、加熱空間が真空になるわけではありません。
本質は、
食材の外側に「袋」という素材が一枚増えることです。
熱は基本的にこう入ります。
外側媒体(湯/蒸気/熱風など) → 袋 → 食材
結果として起きることは、かなり実務的です。
・袋の内側は乾きにくい
→ 焼き色・香り(表面反応)は起きにくい
・一方で芯温は作りやすい
→ 歩留まり・均一性・再現性は上がりやすい
だから強い運用はこれです。
「真空で芯まで狙い通りに入れる」
→「開封して表面を乾かす」
→「最後に放射/伝導で焼き色と香りを足す」
また、もし仮に金属製の耐熱袋などで、
真空のまま「焼く/揚げる」が物理的にできたとしても、
食材側の挙動は袋越しの伝導中心になりやすく、
料理としては湯煎(界面越しの火入れ)に近い寄り方になりがちです。
※安全面:密閉状態で高温環境(直火・油)へ入れる発想は、内圧上昇や破断などの事故リスクがあるため、現場導入は慎重に判断が必要です。
9. 【まとめ】現場で迷った時の“判断軸”だけ残す
9-1. 結論(これだけ覚えれば十分)
遠赤/炭焼き“っぽさ”は、道具名ではなく「熱の比率」で作ります。
熱は結局、伝導(接触)・対流(流体)・放射(赤外線)の3つ。
現実は常に混在で、違うのは割合だけです。
9-2. 遠赤(放射)でズレないための要点
放射は温度が上がり切った瞬間に強くなる(体感が一気に変わる)。
“効いてる/効いてない”を決めるのは材質名ではなく、
①何℃まで上がっているか
②食材からどれだけ見えているか(距離・遮り・配置)
この2点です。
9-3. 溶岩プレートの落とし穴(起きやすい負け筋)
直火をプレートで塞ぐと、燃焼ガスの対流が弱まりやすい。
立ち上がりはプレートの熱容量に引っ張られ、
表面温度が上がり切らない → 放射が伸びない → 鈍い加熱になりがちです。
9-4. 装置の使い分け(強みの方向)
石窯・ピザ窯:床の伝導+壁天井の放射が強い。短時間で焼き色と香りを作りやすい。
スチコン:対流+湿度が強い。歩留まり・均一性・再現性が作りやすい。
→ だから合理的なのは、芯を作る工程と表面反応を作る工程の二段構え。
9-5. 真空の整理(“真空”ではなく“袋”が本体)
真空調理は「真空が加熱を変える」というより、
袋という界面が一枚増えるのが本体です。
その結果、
表面は乾きにくい → 表面反応(焼き色・香り)は弱くなる
芯温・均一性・歩留まりは作りやすい
となりやすい。
実務の最適解は、
真空で芯を作る → 開封して表面を乾かす → 放射/伝導で焼き色と香りを足す。
9-6. 30秒チェック(現場で即使う確認順)
いま主役は 伝導/対流/放射のどれか
放射を狙うなら、高温面は上がり切っているか
その高温面は、食材から“見えているか”(距離・遮り・配置)
温度が落ちていないか(投入量・熱容量・回復)
表面反応が欲しいなら、表面が乾いているか(水分が残ると遅い)



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