【記録】出汁を半分にできるのか?から始まった、パエリア厨房の小さな戦争
- BOQUERIA
- 7月3日
- 読了時間: 3分

登場人物
松本光慈(店主):地中海料理と設計検証を愛するBOQUERIA代表。すべての料理に“数字の答え”を求める性格。
ChatGPT(検証担当AI):原価計算・配合試作・文書化を担うが、肝心なところで詰めが甘い。
きっかけ:「出汁って半分にできないのか?」
ある仕込み中、松本がふと口にした。
「パエリア出汁、毎回200g使ってるけど、100gにできたら冷凍も運搬もだいぶ楽よな?」
当然、水を多めに足せば味は調整できるはず。ならば「出汁を濃縮して使えばいい」という話になる。飲食現場ではよくある発想だ。
その場でChatGPTに検証指示を出し、構成の試作が始まった。
目的はシンプルだった
冷凍庫のストック効率を上げたい
毎回200gの出汁計量が面倒
イベント時の持ち運びを軽くしたい
つまり「同じ味で使用量だけ減らしたい」
という一点に尽きた。
初期設計:「200gの出汁と同じ味を100gに詰めればいい」
ChatGPTは早速以下の案を提示:
「現行出汁200gに含まれる味成分を1.67倍圧縮すれば100g濃縮出汁になります」
この時点で松本はすぐ問い返す:
「いや、それって200gに含まれる“水”はどこいった?濃縮って水を飛ばすってことじゃないの?」
混乱が始まった:水と味成分のズレ
出汁は200g。そのうち実際の「味の成分」は何gなのか? GPTは、勝手に味成分=60g前後と仮定して話を進めていた。
→ 結果:ブイヨンやオニオンなど、全体で見ると本来の1/2しか素材が入ってない出汁100gが出来上がっていた。
松本:
「これ、水で300g足しても、そもそも味が薄いの当たり前やろ」
この時点で「濃縮=味の絶対量を変えずに水だけ減らす」が守られていないことが判明。
計算の修正:素材のg数を一切減らしてはいけない
松本が整理したポイント:
100gの出汁ベースを作るなら、200g出汁分の素材はそのまま全部入っているべき
使用時に水を足して400gにすれば味は一致する
見かけの濃度(含有率)は違っていても、素材のg数が一致していれば味も一致する
このロジックに沿って再設計し、正確な原液構成を割り出した。
検証の結末:今回は断念
今回の「濃縮出汁」については、煮詰めることで濃度を上げるという設計は、理論的には数字上成立することは確認できている。
ただし、実際に煮詰め工程を伴う場合、
サフランなどの香り成分の気化
オニオン・トマトなどの加熱変質
味のバランスが変化するリスク
が避けられず、「同じパエリアにはならない」ことが確実なため、検証前段階でリスクを判断し、今回は現行レシピの味を守る方針を優先して見送ることにした。
ただし、ゼロベースでレシピを新設計する際には、今回の「濃縮→水で戻す」という考え方は十分に活かせる可能性がある。
実際に進めてみたら、現行を超える味や運用性を得られることもあり得る。今後の開発レシピでは、この考え方をベース設計の一案として継続的に検証していく予定。
正しく設計すれば、確かに100g出汁+水300g=200g出汁+水200gと同じ味にできる。
が、それを仕込みの現場で“100gに詰める”となると:
攪拌精度
冷却管理
乳化安定性
など物理的な実行難度が上がりすぎることがわかった。
→ 「出汁を半分にする」という目的は明確でも、 その設計と実行には別の設計思想とリスク管理が必要だった。
学んだこと
味の一致=「水を含んだ最終量」ではなく「素材の絶対量」が基準
含有率の比較だけで“濃度”を議論するのは誤解を生む
GPTは計算を間違える。だが、論理で詰めれば人間の方が正せる
まとめ
今回は「濃縮出汁ベース」は断念した。 でも、代わりに得られたのは
「味を変えずに何かを変える」って、想像よりずっと難しい
という、当たり前だけど現場でしか得られない実感だった。
BOQUERIAはこれからも、失敗も含めて料理の全部を、正直に出していきます。
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